古城利一が那須多弓絵と付き合っているということは、クラスには知られなかった。
 教室の中にあって、二人はまったく、互いに関心を持っていないかのように振る舞っていた。弓絵の方は変わらないが、利一の方は意識的に、ほかの男子の席に立って、そこでしゃべることが多くなった。
 彼はなるべく弓絵との交際を隠しておきたかった。このあたり、彼は不思議なまでに慎重であった。
 二人は学校の外で待ち合わせ、一緒に帰った。
 正門を出て、駅とは違った方向に歩いてゆくと、閑静かんせいな団地がある。そこに設けられた公園が、二人の落ち合う場所であった。
 会話は大抵、本の話題から始まった。
「今日は何を読んでたの?」
「えっと……『ジキル博士とハイド氏』」
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