電灯の消えた教室には、夕焼けが差し込んできていた。弓絵は黙々と読書にふけっている。その表情はいつになく紅潮しているように見える。それは、暖色の日差しに照らされているから、というわけでもないようだった。
 物語はいま、最終盤を迎えている。読み手である弓絵自身もそのことを知っている。キラキラとした大団円だいだんえんのイメージが、ゆったりとしたメロディのように頭の中を流れて行く。同時に、もうすぐこの温もりが終わってしまうという、りょうとした感じが、胸の奥に揺らめいた。
 主人公の少年とヒロインの少女は、決意を胸に、教会を出る。振り返って仰ぎ見ると、礼拝堂の鐘が夕陽ゆうひを浴びて光っている。群青に深紅が溶け入った空の下、二人は初めて出会ったときに聞いた、鐘楼しょうろうの音色を思い出す。神々しい響きだけが、若き二人の門出を、優しく包み込んでいた。――
 弓絵は顔を上げた。視線は遠くを見つめていた。
 物語の豊かな余韻よいんが、後から後から押し寄せてくる。窓の外には温かい街並みが広がっている。沈んでゆく太陽が見える。
 鮮やかなオレンジ色に染まった世界を感じながら、彼女は鐘の音色にかれていた。
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