そのダーツバーは、古びた汚い雑居ビルの四階に入っていた。
 およそ二か月ぶりに訪れた利一は、懐かしさを感じるよりも、そのいやらしさに圧倒された。
 完全な不良とも言い切れないような、中途半端な連中が集まっている。彼らは明らかに未成年であり、伊澤や利一のように制服の連中もいたが、店は黙認していた。
 オールバックに髪を固め、バーテンの衣装に身を包んだマスターは、彼らの先輩にあたる。裏ではいろいろヤバいことに手を出しているらしいと、もっぱらの噂であった。
「おお、リー、久しぶり!」
 中心にいる宍戸ししど令司れいじが利一に手を振った。それ以外の男たちも、口々に反応する。
「前よりも冷たくなってないか?」
「てっきり女でもできたのかと思ったぜ」
 冗談で投げかけられた言葉に、利一は内心ギョッとする。
「まさか」
 と答えると、連中はニヤニヤと笑った。
「だよなあ。リーが一人を好きになるなんてあり得ねえよ」
 中には最近になって加わったのか、利一のことを知らない少年もいる。少年が事情を尋ねると、伊澤が得意そうに言った。
「こいつな、中学ン時には最高で四股くらいかけてよ。相当な数の女を泣かせてきたわけだ」
「よせよ。今ではこの通り、まるくなってる」
「どうだか」
 どっと笑いが起きる。利一もまた一緒になって笑った。が、その目にはゆがんだ色が混じっていた。昔と同じようには笑えない。そういう複雑な思いが心中を渦巻いていた。来るまでは懐かしがっていたこの集団が、いまはとても奇異なものに映っていた。なぜ自分はここにいるのか、彼はわからなくなっていた。
「今日はカイトウさんが来るぜ」
 ふと利一はそんな会話を耳にした。誰だと尋ねると、
「言ったろ? 先輩が女の子を連れて来るって」
 と伊澤が耳打ちした。
「マスターの知り合いらしい。九月にあの店に来てさ。すげえノリが良くておもしろいんだ。マスターと同じでどこか恐い感じもあるんだけど、そこがまたかっこいいんだ」
 はあ、と利一はうなずいた。
 正直なところ、かつての彼――夏休みまでの彼は、マスターに憧れている部分が多少あった。が、いまの利一はむしろ彼を嫌っていた。いまも、彼は入店する際、マスターだけをあえて無視した。胸中にわだかまりをかかえながら、彼は少年たちと時間を共にした。

 そろそろカイトウさんが女の子を連れて来るだろう。そう言われていた頃だった。
 急に利一の携帯が鳴った。那須多弓絵からだった。